ブリジット・ルシール・アライン・サイロネス・カタラン(規格外キャベンディッシュバナナの役割:フィリピン・ミンダナオにおける食料安全保障と経済的持続可能性への道筋)

フィリピン東南大学 農学及び関連科学部 農学科/
東北大学大学院 農学研究科 人間の安全保障のための食料と農業プログラム

キャベンディッシュバナナは、フィリピンの農業産業において主要な経済的役割を担っており、この品種のバナナ農園の総面積86,000ヘクタール(19%)を占めている。ミンダナオ、特にダバオ地域は、国内における主要な生産拠点であり、年間生産量は260万トンで、国内のキャベンディッシュ生産のほぼ50%を占め、輸出市場、とりわけ中東及び東アジア諸国に重点が置かれている。ステークホルダーには、多国籍企業(MNC)、独立事業者(包装及び輸送のサービス提供者)、協同組合及び小規模農家などがある。多国籍企業は主に輸出市場向けのキャベンディッシュバナナの生産に重点を置いている。協同組合及び組織は、多国籍企業と契約生産するが独立運営することが出来る。契約生産者及び独立生産者の何れも、品質基準を満たす限り輸出することが出来る。国際市場における潜在力がある一方で、価格変動、厳格な品質基準、激しい競争による経済的ショックのリスクと不確実性も存在する。一方で、「規格外」と分類されたキャベンディッシュバナナ(輸出基準を満たさない品質のバナナ)は、国内市場で消費されています。しかし、農業省の報告によれば、キャベンディッシュバナナの国内消費は消費者の嗜好のため停滞している。キャベンディッシュバナナを原料とした付加価値製品の開発も限定的である。これらの問題は、食料安全保障及び経済的持続可能性に係る諸問題の一因となっている。国際連合食糧農業機関(FAO)の定義によれば、食料安全保障とは、すべての人々が常に十分で安全かつ栄養価の高い食料に物理的、社会的、経済的にアクセスできる状態を指す。食料安全保障には、可用性、アクセス、利用、安定性という4つの主要な側面が含まれる。規格外キャベンディッシュバナナの利用は、食料の可用性の向上、食品廃棄物の削減、手頃な価格での入手可能性の向上、経済的持続可能性の支援といった複数の方法によって、食料安全保障に貢献する。

一般的に言って、農産物の輸出市場を視野に入れることは、国にとって利点となる。経済的ショックの際、多国籍企業は利用可能な資源と確立された生産システムによって容易に対応可能である。他方、経済ショックは協同組合や組織に属する小規模農家に影響を及ぼす。彼らは市場の変化に対応するために追加的な資源と努力を求められる。小規模農家にとり、キャベンディッシュバナナの多様な国内市場の存在は、輸出市場向けの高品質な生産を追求するのではなく、少なくともコストを最小限に抑える手段となり得る。市場に関する課題に加えて、日々の収穫量のおよそ20%が輸出基準を満たせず、選別場で不合格となっていることも問題である(Sukri et al.,1999)。規格外キャベンディッシュバナナの効率的な利用による国内市場の強化は、国際市場における不確実性の緩和、食料安全保障の向上、経済的レジリエンスの強化のための余裕を与えることになる。しかし、国内市場の現状は、これをより困難なものにする。規格外キャベンディッシュバナナの現在の利用、慣行、管理に関する調査は、未開拓の機会、国内市場における課題、食料システム及び循環型経済の拡張に関する情報を提供し、キャベンディッシュバナナ産業の上記の課題への対応、ひいてはミンダナオのみならず国全体における食料安全保障と経済的持続可能性への貢献に資することになる。したがって、本研究は、規格外キャベンディッシュバナナの利用と市場機会を通じて、食料安全保障及び経済的持続可能性に対する役割を評価するものである。また、本研究は持続可能な開発目標(SDGs)、特に目標2(飢餓をゼロに)及び目標12(つくる責任、つかう責任)に整合している。

本研究の目的は以下の通りである。(1) 規格外キャベンディッシュバナナ利用の経済的実現可能性と投資可能性の評価。(2) 市場機会の拡大と経済的持続可能性の向上に寄与する規格外キャベンディッシュバナナ利用に影響を与える消費者行動、価格弾力性、及び市場動態の分析。(3) フィリピン・ミンダナオ地域における食料安全保障の向上及び経済的持続可能性の促進に対する規格外キャベンディッシュバナナ利用及び市場機会の影響の検討。先行研究は、特にフィリピンのような開発途上国において、規格外キャベンディッシュバナナ利用の経済的・社会的影響に関する詳細な情報が不足している。本研究の結果は、多様な機会に関する関係者の意思決定の基礎、輸出市場の不確実性への対応や国内市場需要の促進に向けた政策、プログラム、イニシアティブ強化のための指針となり、農業経済学、食品科学、持続可能な開発の分野における世界的に応用可能な知見を提供するものである。本研究は、キャベンディッシュバナナの主要関係者を対象に調査及びインタビューを実施し、実務や課題に関する情報・データを収集する。規格外キャベンディッシュバナナ利用の可能性と影響を評価するために経済モデルも活用する。本研究の期待される成果は、(a) 規格外利用の現状分析、(b) サプライ・バリューチェーンのフレームワーク構築、(c) 潜在的市場価値及び経済的影響の評価、(d) 農業副産物利用を支援する政策提言、である。本研究は、ミンダナオだけでなくフィリピン全体に貢献する。農業廃棄物利用と持続可能な開発に関する高度な知見を提供し、国際学術誌で成果を発表することで、規格外キャベンディッシュバナナの潜在性を広く認識させ、フィリピンを持続可能な農業研究の先駆者として位置付ける。ダバオ地域の小規模農家は、規格外キャベンディッシュバナナから多様な可能性と機会を得るための具体的な情報を得ることが出来、食品廃棄物の最適活用による食料安全保障の向上、潜在市場の創出、循環型経済を促進する持続可能な農業モデルの開発、環境負荷の低減及び資源効率の向上が図られる。また、バナナ産業の多角化と輸出市場依存の低減によって、経済的レジリエンスも強化される。

東北大学大学院農学研究科「人間の安全保障のための食料と農業プログラム」は、主に食料安全保障、貧困削減のための農村開発、持続可能な農業開発及び資源管理に焦点を当てている。したがって、本研究の目的は、規格外キャベンディッシュバナナの現行利用と市場機会の探求を通じ、食料安全保障及び経済的持続可能性の向上を目指すという点で、本プログラムの目的と整合している。

規格外キャベンディッシュバナナ利用の役割を評価することは、食品廃棄物問題への対応、食料安全保障の強化、経済的持続可能性の促進に向けた重要な情報を提供するための独自の機会を提供する。東北大学が有する社会科学研究とイノベーションの専門知識を活用することで、本研究はキャベンディッシュバナナ産業の課題に取り組み、それを経済的にレジリエントな産業へと変革することを目指す。研究成果はフィリピンのみならず、同様の課題に直面する他の農業経済にも適用可能なモデルとなるだろう。

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